”話してくれてありがとう”


若い頃、「橋のない川」(住井すゑ著作)
という本を読みかけたまま・・・・
今だに読み終えていません。


この本の内容は、明治時代後期の奈良県のある被差別部落(小森部落)が舞台です。
ほとんど全編を通じて部落差別の理不尽さ並びに陰湿さが書かれています。



つい、最近まで、この「橋のない川」のテーマとなっている差別は
すでに遠い昔の話と思っていたのですが、
今でも理不尽な根強い差別があるのですね。



ある方が書いた「話してくれてありがとう」というエッセイ。
差別される側の心の痛みが伝わってきます。





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2011年度 第3回人同担者研 発表資料


「 話してくれてありがとう 」


人権・部落問題は、今もなお根強く残っているということを,
これまでの授業を通じて改めてわかりました。
現在、私には高校時代から付き合って2年になる彼がいます。

 
私が、自分が被差別部落の出身であることを知ったのは、ちょうど2年程前のことです。
洗濯物をたたんでいるときに、母が私に言いました。
「ねぇ、部落差別とか聞いたことある?
学校の道徳の授業のときとかに勉強したことがあると思うんだけど。」


私は、「江戸時代に被差別身分の人たちが存在したこと、
そして、明治時代以降、その身分がなくなったこと。
しかし、それにも拘らず、
そのことで今もその人たちを差別している人たちがいるということを習った」と
母に話しました。


そうすると、母は涙ぐみながら、
私(の家族)が住んでいるこの土地(集落)が
被差別部落であるということを説明してくれました。
そして、自分も、以前結婚したいと思う人がいたが、
部落差別により結婚できなかったことを話してくれました。

 

そして、それは母だけにとどまらず、
私の2つ年上の姉にまでも影響しました。


その彼と3年程お付き合いしていた姉は、
その男性と結婚する約束をしていました。


しかし、ある日その男性の家に遊びに行った際に、
男性の母親から 「どこ出身なの?」 と尋ねられ、
姉は自分の住んでいる土地(集落)の名を言いました。


その瞬間に男性の母親の顔が急に変わった、と後に姉が言っていました。


その後、男性は、姉が部落出身の人だからという理由で
母親や親せき中から結婚を反対されました。
一時は、「そんな大昔のことは関係ない。」と言っていた彼も、
ついに結婚する意志をなくし、姉たちの交際は終わりました。


姉が部落出身であると知った日から、
男性の母親は電話の取次ぎをしなくなるほど、
姉に対する嫌がらせをするようになりました。


姉自身、男性の母親から出身を聞かれたときは、
まだ自分が被差別部落の生まれであることを知りませんでした。


彼の家での出来事を母に相談した際に初めて事実を知ったのです。
そのときに姉が受けた傷は、あまりにも深すぎました。
体調を崩し体重は激減し、私たち家族も見ていられない程でした。


このような姉の体験を私に語った母は、私に一言こう言いました。
「自分が被差別部落の出身だということは、今後人に言う必要はないし、
だからといって、下を向いて歩く必要もない。
堂々と胸を張って生きればいい。」この言葉は私の心の中に強く残っています。


母はあえて人に言う必要はないと言いましたが、
私には、どうしても納得できませんでした。


そこで私は、交際して2年になる彼に話をすることを決意しました。
話す前は、本当に勇気が必要でした。
これを言ってしまったら、
母や姉のように結婚することもできなくなり、
今の関係が壊れるかもしれないと思うと、悲しさのあまり涙が出てきました。
そして、母が私に話したときのようにゆっくりと彼に話しました。
泣きながら話す私の話を彼は黙って聞いていました。



私が話し終わると、彼は一言「『話してくれてありがとう。』
でも本当は知っていたんだよ。」と言いました。


彼の両親が、私たちが交際し始めの頃に彼に話したのだそうです。
彼の両親は、彼が私とこれから付き合っていく中で、
私の住んでいる土地が被差別部落だということを知り、
そのせいで別れたりするような
心の狭い差別意識を持った人間にだけは育ってほしくないと思い、
彼に話したのだそうです。


私は彼からその話を聞き、今度は嬉しくて涙があふれました。
そして、人権や差別に対してきちんとした考えを持っている
彼の両親に本当に感謝しました。


彼の両親が前もって彼にきちんとした人権教育をしていたからこそ、
今のこの関係があるように思います。
差別は繰り返されます。
親から子へ受け継がれてしまうのです。
だからこそ、私も将来自分の子どもが生まれたら、
このような問題に直面する前に、しっかりと教育したいと思います。


世の中にもっともっと、
人権・部落問題に対するきちんとした教育を受けた人たちが増えれば、
部落問題はなくせると思います。


そのためにも、小さい頃から中途半端ではなく、
きちんとした人権教育が必要だと思います。


私もこれからの問題に少しでも協力できるように、
まずはしっかり自分が勉強していこうと思っています。

( 出典: 宮崎県人権・同和教育研究協議会編 『いきる(高校用)』 一部改作 )
http://www.saga-ed.jp/workshop/karatuji/data/jissen/t-3/tyu3-hanasite2.html


もう一度、「橋のない川」を読み直し、最後まで読み終えたいと思います。